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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)843号 判決 1961年11月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人甘糟勇雄の上告理由第一点について。

小切手法一三条は、白地小切手について、予め為したる合意と異る補充がなされた場合に、その違反は、これをもつて、善意で、かつ重過失なくして小切手を取得した小切手の所持人には対抗することができない旨を規定する。このことは、既に補充権の行使によつて完成された小切手を善意で、かつ重過失なくして取得した所持人の場合に適用されるのみならず、善意でかつ重過失なくして白地小切手を取得した所持人が自ら予めなされた合意と異る補充をした場合にも適用あるものと解するを相当とする。けだし、同法一三条の法意は、小切手の流通を円滑にし、善意で、かつ重過失なき所持人を保護することを主意とするものであるからである。論旨はこれと反対の見解をとるものであつて採用することはできない。

同第二点について。

所論は原判決が適法にした事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由とならない。

同第三点、第四点について。

白地小切手の補充権は、白地小切手の小切手としての欠缺要件を補充して小切手を完成する権利であつて一種の形成権であるが、形成権といえども、その消滅時効については、一概に民法一六七条二項を適用すべきものではなく、各種形成権について、その性質に従つて、消滅時効の期間を定むべきであることは既に大審院判例のあきらかにするところである。(大正五年五月一〇日判決民録二二輯九三六頁、大正一〇年三月五日民録二七輯四九三頁参照)

白地小切手の補充権は小切手要件の欠缺を補充して完全な小切手を形成する権利であること、補充権は白地小切手に附着して当然に小切手の移転に随伴するものであること等にかんがみれば、補充権授与の行為は本来の手形行為ではないけれども商法五〇一条四号所定の「手形に関する行為」に準ずるものと解して妨げなく、また白地小切手の補充は、小切手金請求の債権発生の要件を為すものであり、さらに小切手法が小切手上の権利に関し特に短期時効の制度を設けていること等を勘案すれば、白地小切手の補充権の消滅時効については商法五二二条の「商行為ニ因リテ生シタル債権」の規定を準用するのが相当である。従つてこれと同趣旨で、白地小切手の補充権はこれを行使し得べきときから、五年の経過によつて、時効により、消滅するものとした原判決の判断は正当である。これと所見を異にする論旨は当裁判所の採用しないところである。

同第五点について。

いわゆる権利の自壊による失効の原則の適用が認められるものとするためには、単に小切手上の権利を行使しなかつたというだけでは足らず、右原則を適用すべき特段の事情がなければならないところである。しかるに本件において原審の認定によれば、被上告人が本件小切手の振出日を補充し且つ本件小切手上の権利を行使するにつき信義則に反すると認められるような特段の事由があるものとはいえないというのであるから、所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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